
山中 裕樹 教授
[専門分野]
生物多様性科学、環境DNA学
▼解決をめざす「社会課題」
生物多様性の減少は、世界規模での危機に直面しています。この課題に対して「びわ湖100地点環境DNA調査」という革新的なプロジェクトを立ち上げました。環境DNAとは、水や土壌中に存在する生物のDNAの総称です。私たちはコップ1杯の水からDNAの断片を採取・分析し、川に生息する魚を特定するDNA分析技術の研究を進めてきました。従来の調査では見落とされていた希少種や外来種の分布まで把握できるこの技術を活用し「ネイチャーポジティブ」をめざします。これは「多様性減少に対して人類が責任をもち、社会・経済のシステムの更新を経て、人類が暮らしつつも多様性を減少させずに回復させていく仕組みをつくる」壮大な挑戦です。滋賀県という限定的な地域で実証し、スモールスケールでのネイチャーポジティブの成功例を世界に発信することが狙いです。あらゆるステークホルダーと協働し、保全行動につながる新しい社会を構築していきます。
環境問題は往々にして他人事としてとらえられ「誰かの責任」と片づけられがちです。しかし、生物多様性の減少は、私たち一人ひとりが確実に関与している重要な課題です。「行動、生活、コミュニティ」が環境につながる複雑なパスを分析していくと、自分たちが要因の一つになっていることを理解できるはずです。環境DNA分析は、見えにくい生物多様性の実態を可視化し、客観的な情報として提供することで、社会全体の意識改革を促進します。今回のプロジェクトでは、組織としてどう行動すればネイチャーポジティブのための社会・経済システムの変更に貢献できるのかを考えていただきます。そして消費行動や間接的な効果を含めた私たちの日々の判断が生物多様性とどうつながっているのか、科学的な視点から明らかにします。生物多様性のステークホルダーだという自覚を持つことこそが、この課題を解決する確かな一歩になると信じています。
藤本 周子さん
理工学部 環境ソリューション工学科 2023年卒業
理工学研究科 修士課程 環境ソリューション工学専攻 2年生
(京都府 大谷高等学校 出身)
生態系は複雑な条件が絡み合って成り立っています。その複雑な相互作用を明らかにするため、プログラミングを活用した定量的アプローチから取り組んでいます。現在は「植物プランクトン由来VOCのツボカビ感染による質的・量的時間変化」に着目し、先行研究の少ないツボカビの水域生態系における重要性を追究しています。研究にあたって、ツボカビや植物プランクトンといった生物の培養が思うように進まず、何度も実験方法の変更を強いられました。しかし、この研究が進めば、水域生態系における環境保全につながるに違いありません。