
中沖 隆彦 教授
[専門分野]
高分子の分子構造と機能性材料
▼解決をめざす「社会課題」
私たちの暮らしに欠かせないプラスチック製品は、年間850万トンも廃棄され、ストローなどの使い捨て製品がその40%を占めるといわれています。日常的に使用しているプラスチックは石油化学由来のものがほとんどで、焼却の過程で排出される有毒ガスが問題視されています。埋め立て処理を行っても腐敗せず、半永久的に地中に残るため、海洋汚染などの深刻な環境問題も引き起こします。こうした問題の解決をめざし、微生物の力を活用した循環型プラスチックの開発に取り組んでいます。原始的な微生物がエネルギー貯蔵物質として体内に蓄積する天然のポリエステルに着目し、これを抽出して代替材料とする研究を行っています。この生物由来のプラスチックは焼却されると自然界の微生物によって分解され、二酸化炭素と水に戻ります。さらに、その二酸化炭素は植物の光合成により再び炭素源として取り込まれ、新たなバイオプラスチックの原料となるのです。
より実用的なバイオプラスチックの開発をめざし、さまざまな取り組みを進めています。具体的には、バイオプラスチックの生合成に必要な炭素源として、イモやトウモロコシなどのでんぷん、菜種油や大豆油などの植物油、果汁に含まれる糖類など、植物由来の原料の可能性を探っています。また、生体触媒である酵素を活用した環境負荷の少ない合成方法の確立や、ドラッグデリバリーなどの医療用高分子への応用研究も行っています。化石資源に依存しないバイオプラスチックの生合成で、枯渇が懸念される資源問題への解決の糸口が見つかるかもしれません。この研究が実を結べば、プラスチックの生態系への影響やプラスチック廃棄物の埋め立て問題など、現代社会が直面するさまざまな課題解決の一助となるでしょう。これからも、持続可能な材料の研究・開発を通じて、より豊かな社会生活を支える基盤づくりに挑戦し続けます。
神田 ららほさん
理工学部 物質化学科 2023年卒業
理工学研究科 修士課程 物質化学専攻2年生
(兵庫県立小野高等学校 出身)
生体適合性の高い再生医療材料の開発をめざし、ペプチドやタンパク質などの生体分子を活用した研究に取り組んでいます。現在は「Hisタグを有するコラーゲンモデルペプチドの合成および抗菌性を有する銅イオンとのアラインメント制御」をテーマに、インプラント材料の性能向上に取り組んでいます。合成の過程で直面した困難も、担当教員とのディスカッションや先行研究の精査を通じて克服し、次のステップに到達できました。今後も有機化学・無機化学・生化学の知識を総動員し、骨形成の時間短縮と抗菌活性の実現に向けて研究を重ねていきます。