- 教員氏名
- 池田 聖(いけだ せい) 教授
- 学位
- 博士(工学)
- 学歴
- 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程修了
- 専門分野
- 拡張現実感
- 研究課題(長期)
- 視覚機能に基づく複合現実感
- 研究課題(短期)
- 後天性失明者のための実空間視線インタフェース
IT企業の世界最大手であるGoogleは、2023年現在、総収益約13兆円の約8割がネット広告の収入でした。ネット広告は、ウェブや動画、ゲームなど様々なコンテンツと関連付けられて表示されますが、いずれの場合でも広告の表示箇所はパソコンやテレビ、スマートフォンの画面内に限られています。将来、拡張現実感(以下AR、Augmented Realityの略)技術の進化により、普通のメガネや自動車の窓などを通して現実の世界のあらゆる場所に広告が表示できるようになると、新たな巨大市場が形成されると想像することができます。こうした市場形成は社会を劇的に変える可能性があります。
本研究室では、AR技術が実利用化されるだけでなく広く普及した未来を仮定し、どのような社会が広がっているのか、どのような新しいサービスが登場し、どのような新しい娯楽が流行しているのか、またどのような現代の課題が解決できるようになり、どのような新たな社会的問題が生まれるのかを、学生の自由な発想を交えて科学的および工学的に考えます。
特に、ARの主要技術である視覚情報処理に注目し、人の視覚機能を深く理解することにより、従来解決できなかった様々な問題の解決を図ります。
例えば、通常の眼鏡のレンズのように透明な素材で作られ光をそのまま透過するARゴーグルでは、仮想物体を自由に提示できても、実風景の一部分の輝度を下げることができずに、仮想物体の影のような暗い部分を表現することができませんでした。
これに対して、人の視覚特性の中でも特に明度知覚特性を考慮し、錯覚現象を利用することで影を表現することに成功しています(右図)。
また、別の例として、半透明な仮想物体が表示されたときに、AR技術の利用者が仮想物体を見ているのか、透けて見える後ろの風景を見ているのかを、眼球運動の解析により判別することにも成功しています。これにより、従来難しかった人が注視する対象物の奥行きに関する情報を得ることができるようになりました。
これらの2つの例は、直接的に高品質なAR広告の提示やAR広告の閲覧回数を調べるのに利用できることが分ります。
このような未来の到来に備えて、本研究室ではAR技術の発展を見据え、新たな市場や社会の変化に対応できるように研究を行っていきます。
我々の研究では、視覚情報処理やユーザー体験の向上に焦点を当て、AR技術が生み出す様々な可能性に挑戦しています。
また、学生たちとともに、未来の社会を想像し、その中での科学的および工学的な貢献を模索していきます。